海老せんべい

こんなことを言ふと身も蓋もないのだけど、うちは、夫婦仲がとても良い。たとへば、海老せんべいを食べるときなんかも、こんな感じだ。
私「海老せんべいを食べよう」
妻「さうね、ぢやあ、袋を開けるね」

私「どうした?」
妻「開かないの、開けてくれる?」

私「よし、(ばりツ)、ほい開いた」
妻「ありがたう、助かるわ」

……と、ここまでなら、普通の夫婦だ。海老せんべいを食べながら、さらに會話は續く。

妻「かうして海老せんべいが食べられるのも、あなたのおかげね」
私「さうか?」

妻「あなたがゐなくなつたら、あたし、どうやつて海老せんべいの袋を開けたらいいのか……」
私「へ? いや、開けかたなら、いろいろ……」

妻「あなたがゐなかつたら、あたし、あたし、……」
私「いや、だから……」

妻「あたし、『ハサミ』を使つて開けることになるのね」
私「……」

バカとハサミは……、と云ふことわざが頭をかすめるが、氣にすることなく海老せんべいを食べ續けるくらゐ、妻と私の夫婦仲は良い。良いつたら、良い。