七人目の男

電車の定員は、おおよそ 130 人前後。そして、通勤時は定員の 200% 超とかが普通だ。
たとえば 10 輌編成の電車で定員の 230.769231% が乗っていると仮定すると、3000 人が集合している計算になる。え?、数字が恣意的に見える? それは気のせいですきっと。まあともかく 3000 人もいる。これはすごい。

で、この 3000 人が、電車に乗っている間、何をしているかというと、「何もしない」のだ。これは怖い。

もちろん異論はあると思う。「私は小説を読んでます」とか、「俺は携帯端末でブログ読んでるぜ」とか、「iPod 聴いてる」とか、「折紙を折ってる」とか、「わしは瞑想しておる」とか、「おいらは迷走してる」とか、まあ、いろいろあるだろう。

けど、いずれも少数派なので気にしない。ばっさり切り捨ててしまう。え?、何?、数の暴力?、失礼しました、ちゃんと計算に入れます。じゃあ、3000 人から、ひぃふぅみぃ……、六人引いて、2994 人ね、これで大丈夫ですね、文句ありませんね。では、あらためて……。

つまり、この 2994 人は、電車というひとつの空間に集まって、「何もしない」のだ。ただじっと立ったまま。これは相当に怖い。

たとえるなら、町のグラウンドに地域住民 3000 人が集まって「何もしない」のだ(ただし、そのうち六人は、小説、携帯端末、iPod、折紙、瞑想、迷走)。誰もサッカーなんてしない。

あるいは、氷川きよしのコンサートで、おばさん 3000 人が「何もしない」のだ(うち六人は、小説、携帯端末、iPod、折紙、瞑想、迷走)。今日も絶好調「きよしのズンドコ節」に、誰ひとり反応しない。

もしくは、甲子園球場で、阪神の応援団 3000 人が「何もしない」のだ(六人は、小説、携帯端末、ええいなんだか鬱陶しいぞ、でも数の暴力は許されないので、iPod、折紙、瞑想、迷走)。阪神ファンなのに何もしないなんて、これは本当に怖いぞ。

……とかなんとか考えていたら、駅に着いた。やっとすし詰めの電車から解放され、そして、やれやれ、今から仕事か。

そんなわけで今日も私の会社には、おおよそ 3000 人の社員が集まる。何もしないわけではないだろうが、たぶん、そのうち六人は、小説、携帯端末、iPod、折紙、瞑想、迷走をしてるに違いない。おいおい、会社なんだから仕事しろよ。

その六人のほかにもう一人、七人目の男が、こうして雑文を書いている。だから仕事しろって。